孤独かつ弱気な大学生の戯言

学生の考え。日常の出来事。バンドのこと。これからのこと。そういった事柄についてのブログ。
 恵利花の家はパン屋だ。したがって、父親と母親は早朝に起きてすぐに仕事に取り掛かり、朝の7時には焼きたてのパンを店頭に並べる。このパン屋は駅前にあるというわけでも、大通りに面したところにあるというわけでもなく、ただの住宅街のはずれに、一般の住宅と同じようにある。そのため、新規の客は獲得しづらいようで、この店の利益の大半は父親と母親の近所づきあいによるものだ。とにかく、恵利花の両親は気さくな人たちで、近所の人たちに信頼されているのだ。そうでなければこのような立地にある店で利益を上げることなどできなかっただろう。もちろん、だからと言って味がいまいちというわけでもなく、焼きたてのそのパンは近所では知らない人がいないほどに評判なのだ。
 そんなパン屋の恵利花の家だが、1階部分が店で2階と3階が住居スペースとなっている。恵利花の部屋は3階だ。そんなに広いというわけでもない和室。明るすぎず、暗すぎず、ちょうどよい日光がその部屋の清潔感を醸し出し、恵利花の人格を表しているようだった。ごちゃごちゃと家具が並んでいないので、決して広いというわけではないのに空間を感じさせる。圧迫感がないので快適に過ごせるだろうと思った。
 恵利花は僕にCDを貸してくれた。それは恵利花のお気に入りで、学校でいろいろなアーティストの話になった時に、そのCDを貸してくれるということだったのだ。別に僕がわざわざ恵利花の部屋まで来る必要はない。しかし、恵利花が「遊びに来る?」と聞いたので、僕は視線を右に泳がせてから恵利花の目を見てうなずいた。目を泳がせた先には、教室の窓からなんという名前かわからない小鳥が木の枝に着地するところが見えた。
 恵利花が僕を誘ってくれたのはなぜか。恵利花は僕に自分の部屋を見せるなどというリスクを負わなくてもCDを学校に持ってくるだけで目的は果たせたはずだ。しかし、そちらを選択することはなく、わざわざ僕を招いた。僕には想像力はない。だから、理由として考えたのは一つだけだった。すなわち、恵利花は僕に気があるのではないか、というものだ。僕は、恋愛方面のことについてはあまり得意ではない。だから、大した想像もできず、すぐによこしまな願望を想像してしまう。僕にとって都合のいい妄想をしてしまうのだ。今回で言えば、恵利花が僕のことを好きかも知れないということだ。だから、僕は冷静に考えるように努めた。最近の女の子はそう言うのをあまり気にしないのではないか。別に部屋に入れても入れなくてもどっちでもいい。今回はたまたま部屋に入れるという選択をしただけで、深刻にはとらえていないだけなのではないか。あるいは、こうも考えられる。ちょうど僕たちはアーティストの話をしていたから、恵利花は僕に自分の聞いているアーティストを見せるためにCDの棚を見せたかっただ、というものだ。これはかなり納得のいくもののように見える。実際、恵利花の部屋はシンプルだが、ある一角の本棚にはCDがずらりと並んでいた。
 そういえば、どうして僕はここまで深刻に考えているのだろう。別に僕だって普通に恵利花の部屋に入ればいいだけではないか。何がいけないのだ。
 ……もしかしたら、僕自身が恵利花のことを好きなのかもしれない。そうでなければここまで深刻には考えないだろう。
 だが、結論を出すには早すぎると思った。早く結論を出すことは危険だ。僕が意識して「好きだ」と思った時、僕の心は恵利花のことを好きという気持ちで固定されてしまう。僕の気持をラベリングしてしまうことによって僕の無意識の気持ちまでが変化しないものになる。無意識レベルでは好き、までいっていないのに意識が「好きだ」と思い込むことによって無意識にまで影響を及ぼし、僕の深層心理までもが思い込みに支配されてしまう。もしかしたら、僕の気持ちはもっと違うところにあるのかもしれないのに、だ。
 まあ、今は何も考えずに恵利花の自慢話を聞くことにしよう。
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